福島地方裁判所 昭和24年(行)54号 判決
原告 富松製藥株式会社 外一名
被告 国府町長
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は「被告が昭和二十三年十一月二十六日原告等に対してなした町民税賦課処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。
三、事 実
原告会社は国府町に製造工場を原告は同町に住所を有するものであるところ、原告等は昭和二十三年十一月二十六日被告より、同町條例第二十八号同町税賦課徴收條例(單に町條例と略称する)および同日定めた同町民税賦課基準(同日同町議案第四十二号同町民税賦課基準変更の件として同町議会に付議して定めたもので、單に賦課基準と略称する)すなわち、均等割百分の十五、住宅割百分の十、前年度町民税額百分の四十五、見立割百分の三十、とした賦課基準により町民税の賦課処分をなされた。原告等は右処分は無効と認め地方税法第二十一條により所定期間内に被告に異議の申立をなしてその決定を受けたが、更に不服があり、徳島縣知事に訴願し、昭和二十四年九月二十三日、同月二十一日付却下の裁決書の送達を受けたが、もちろんこれに服することができないので、右処分の無効であることの本訴確認におよんだのである。右処分が無効である所以は、昭和二十三年七月七日地方税法が根本的大改正を加えられ、同法第百四條に「市町村民税は、所得の情況等を標準とし、均等割を加味して、これを課する」旨に改正せられ、その実施に当り地方財政委員会事務係長の通ちように「市町村民税に関しては、均等割の方法で課する額は五分の一程度が適当であるが標準賦課額の制度を設けたのは税收入の増減は全住民共同の負担について行うべきものが多いから、所得の情況、資産の情況等を標準としかつ均等割を加味して課するものとしたので、いわゆる見立割制を採用する場合も、その見立はこれらについてなすべきである」旨を、徳島縣の各市町村税賦課徴收條例準則第四條「市町村民税は賦課総額の中五分の三に相当する額は所得ならびに資産割をしなければならない旨定めている。從つて、国府町では前記税法および指示に適合するよう前記町條例を改正し、これに基き新に賦課基準を定めるべきである。しかるに右改正をせず、「町民税の賦課総額は六百七十五円に地方税法第六十四條(旧法である)に定める納税義務者数を乘じた額とする。町民税は納税義務者の概算資力の見立によりこれを課する」旨の町條例と存置している。こゝにいう概算資力とは資産および所得を意味しないから前記法條の「所得の情況」を全く標準とすることを定めていない。仮りに右の内に「所得の情況」を含むと解しても、同條に掲げる「均等割」を加味していない。從つて客観的に具有している同條例の文意からして改正税法第百四條に違反して無効である。かかる條例は、他に所得の情況を標準としまたは均等割を加味する旨の課税基準を定めこれと相併せ相まつて、改正税法第百四條の趣旨に適合するよう運用しても右條例が無効なる以上、他のものを以つて補つたからといつて、決して有効とはならない。そもそも右賦課基準なるものは根本法である町條例の存在を前提とするもので、同條例に定めていないことを同基準で定めることはできないものであるから、前記のような町條例に定めてない事項を定めてもそれ自体無効である。斯様に無効な町條例である故これに基き定めた前記本件賦課基準もまた当然無効である。仮りに以上理由ないものとしても、本件賦課基準そのものが、決して改正税法に適合していないから無効である。すなわち同基準は全体として「資産の情況」「所得の情況」を標準としていない。同基準の「見立割」とは「資力」の見立と解すれば他の基準の意味が解し得ない。右は「住宅割、前年度町民税割、均等割」を意味しないとすれば町條例自体に反し無効である。また、住宅割は資産の情況をみる標準と解すれば、資産とは住宅の外に土地動産、権利、金円等を含み、住宅の價値は農業と非農業、自用住宅と貸家とにより大いに異なる故これを以つて「資産、所得の情況」の標準とはならないこと明白である。
なお前年度町民税割は改正税法前のもの故改正税法に合致した町民税の課税標準となし得ないのみならず、これは賦課当時の資産所得を標準としていないから違法である。かように同基準の「均等割」を除いて何れも改正税法に違反しているものである。
かように被告のなした賦課処分の基本である町條例および賦課基準が法令に違反し、地方自治法第二條第六項第七項により当然無効であるから、本件賦課処分も当然無効である。よつてその確認を求めるものであると陳述し、被告の本案前の抗弁に対し、本件訴は原告主張の後記町條例および賦課基準が当然無効であり、これに基く本件賦課処分また当然無効であることを主張するものである。原告等はかかる当然無効の処分による本件賦課処分を受けない権利または利益を有し本訴確認の判決によつてのみかかる処分による賦課町民税額の支拂義務をまぬがれ、同額の損失を防止し、無効処分による執行を排除し得るものであるから、本訴提起の正当なる利益を有すること明白である。この種の訴訟は、原告が違法賦課処分により直接自己の具体的権利を侵害せられ、その回復を求める場合のみに限定せらるべきものではない。けだし本訴は賦課処分の当然無効を主張するものであるが、適法な賦課処分がなされたときのその賦課額を前提としてこれと現に主張している当然無効の賦課額とを比べようとしても適当な賦課額は未定であるから相当であるか、過大であるか、はたまた過少であるかは、全然不明である故現在の処分が当然無効と知りながらも出訴できないと解するが如きは不当である。本訴は、被告のなした行政処分に顕著なかしの存することにより無効または取り消し得るものであると主張するものでなく、また本件町條例および賦課基準を一應適法として、これに基く具体的賦課処分が実質的に不当で違法ありとか、これに顕著なかしがあると主張するものでもない。從つて被告の抗弁は理由ないと述べた。(立証省略)
被告は本案前の抗弁として、原告の請求を却下する。との判決を求め、その理由として、本訴は原告主張の賦課処分に不服なりとしてなす訴訟であるところ、かかる訴訟は違法賦課により直接自己の権利を侵害せられた者が、その権利の回復を求める場合に限らるべきである。原告等が町住民である以上幾何かの町民税の賦課はまぬがれ得ないのであるから、賦課額が適当である場合または適法な賦課額より過少である場合は、確認の訴をなす利益は有しないものである。詳言すれば、適法と主張する賦課額を前提としこれの額より原告が違法と主張する賦課額より大でないかぎり直接の権利侵害がないから本訴を提起し得ないものである。けだしこの種の訴訟は決して、賦課処分の適正を図るために設けられた制度でないからである。また行政処分はたとえかしがあつても取消がない以上一定期間の経過により、これが有効に確定するものである故本件行政処分につき仮りに違法があれば、その取消変更を求むべきで直ちに無効の確認を求め得べきものではない。と述べ本案の答弁として、主文同旨の判決を求め、原告主張事実中、その主張のように原告等が国府町の住民であること、原告等が異議申立、訴願をなしその裁決を経たこと、その主張のような町條例が存しこれを原告主張のように改正しなかつたこと、その賦課基準を定め、これに基き原告等に賦課処分をしたことは何れも認める。然し、右町條例は決して無効ではない。けだし改正地方税法第百四條には賦課基準を「所得ならびに資産の情況」と限定していないから地方自治団体の実状により適宜自由裁量により同法基準内でその趣旨を実現すれば足りる。本來旧税法にも均等割を加味すべき旨の規定がなかつたが旧法当時より市町村民税に均等割を加味していたのであつて右新法條は旧法條を整備したに止まる。
しこうして本件町條例四條には「納税義務者の概算資力を標準として見立によりこれを課す」と定め、これは資産ならびに所得の情況を概算資力とする趣旨で、同條第二項に「賦課額は町会の議決を経てこれを定める」旨を定めている故町会で議会自らの内部的基準として、当該年度の情況に應じ均等割を加味して適当な基準事項を定めるに過ぎない、しかもこれの基準による賦課額の算出は各納税義務者の資産所得の情況等を勘案してこれに各部落から公選せられた町民税調査委員がなした基礎調書をも斟酌し、詳細檢討して最も適当なる額を議決々定するものである。
從つて毛頭右町條例が新法條の趣旨に反するものではない。また本件賦課基準においても住宅割は納税義務者の住宅よりその生活情況をは握し得て、その消費生活の程度より逆算的に資産および所得の情況をみることができるし、前年度の町民税割はこれにより当該年度の資産所得の情況をほとんど変りなくみることができる。けだし前年度においては各納税義務者の耕作反別、飼養牛馬、所得税、営業税家屋賃貸價格所有山林等およぶ限りの基本調査をなし個々人の資産および所得の情況を詳細正確に調査しているからである。以上の外に当該年度における個々具体的の資産ならびに所得の情况に適合するよう更に個々の情况斟酌すなわち本件賦課基準にいう狹義の見立割を加味して、その不備をおぎなつているのである。斯様に本件賦課基準は各納税義務者の資産ならびに所得の情况等を標準としておりかつ同基準にも明らかなように均等割を加味している故、これまた新法條に反するものではない。仮りに同基準が新法條に則つていないとしても町條例は前述のように無効ではないから、町條例に基き事務的に便宜議会において決定したに過ぎない同基準を無効ということはできない更に仮りに町條例および賦課基準が法令に反して違法ありとしても、本件賦課処分は前述のとおり新法條の趣旨に則り原告等の資産所得の情况等を標準としかつ均等割を加味して定めている故右処分は決して無効ではない。
以上の理由により原告の本訴は失当であると述べ甲号各証の成立を認めた。
四、理 由
第一、被告の本案前の抗弁につき考える。原告の訴旨は、その主張の本件町條例および賦課基準の当然無効を前提として、これに基き昭和二十三年十一月二十六日なした本件町民税賦課処分の無効であることの確認を求め、右行政処分につき取消原因の存することを理由に、その取消または変更を求めるものでないこと明らかである。およそ行政訴訟といえども、該行政処分が当然無効を前提としその効力の不確定であるため、原告が法律上の不利益を受けまたは受けるおそれがあり、その除去のために裁判上の確定判決を必要とする場合は、法律上確認の利益ありとして確認の訴を提起し得るものである。行政処分については行政事件訴訟特例法第二條にいう取消または変更を求める訴にのみ限らるべきではない。被告は原告主張の右行政処分を有効であると主張して抗爭している以上、原告が無効であると主張する右行政処分による賦課処分を受けまたは受けるかも知れずその不利益を被るおそれは十分あり、しかもかかる不利益は確定裁判によつてのみ除去し得るものであること明白であるから、法律上確認の訴を提起する利益あるといえる。被告は、原告が国府町の住民である以上何等かの町民税の賦課処分は免れ難いのであるから、適法な町民税の賦課額を前提とし、それとこれを起える違法賦課額との差額が該行政処分による現実直接の権利侵害額になるもので、かかる直接の権利侵害の存しない本件には確認の利益がないと主張するが、なおも前述のような確認の判決を求める利益が存する以上直接具体的な権利侵害の存することは必ずしも要しないのである。故に、被告の本案前の抗弁は採用できない。
第二、原告等が国府町の住民であること、原告主張の町條例がその主張のように改正されていないこと、その主張のような本件賦課基準が定められ、これに基き原告等に賦課処分をしたことは爭ない。原告は右町條例および賦課基準が昭和二十三年七月七日改正された地方税法(以下單に新法とそれ以前のを旧法と称す)第百四條に違反して当然無効と主張する。考えるに、同町條例が規定せられるに至つたのは、旧法第六十四條第二項に市町村民税の賦課期日の定めの外はその賦課方法は市町村條例を以つてこれを規定すべき旨および同法第六十五條で賦課総額を制限する旨を定めているからである。同第六十四條で賦課方法を市町村條例にゆだねたゆえんは、右制限賦課総額の範囲内で地方団体の自主性を尊重しかつその意思に基く市町村條例による彈力性を持たしめるために外ならない。しかし、昭和十五年八月二十九日付地方・主税両税局の「市町民税に関する件」と題する通ちようを以つて、その大体の方針として、担税力の飽和点と課税方法を指示して過誤または違法なからしめんことを期している。それによると、等級を設けて、それに應じて定額を賦課する方法と、見立による賦課方法とがあるが、各納税義務者の賦課額を見立により定める方法については、各納税義務者の賦課額は毎年度町村会の議決を経ること、見立の標準は所得額または所得額および資産の状况による資力等適宜のものによることとし、その標準の算定方法と共に條例とは別個に適宜定め置くことが適当である旨を指示している。本件町條例および賦課基準の設定は前記旧法條および前記通ちようの趣旨に從つて定めたことは推測に難くない。この経過から考えるに、本件町條例と賦課基準との関係は、町條例を根本として、その展開的または肢分的な関係として右賦課基準を定めたものでなく、両者相俟つて綜合的統一的な法規関係を形成していると解するのが相当である。これに反する原告の所論は採用し難い。從つて本件町條例と賦課基準とを別々にして考えるべきでなく両者を綜合統一的にみて、これが原告主張の新法第百四條に違反するや否やを考えるべきである。本件町條例を見るにその第四條第一項に定める一人当納税義務者の平均賦課額は旧法第六十五條の額にあらずして、現に新法第百七條の四百五十円(ただし後に昭和二十四年五月法律第百六十九号により右は七百五十円に改正)に新法第百二十二條第二項同法施行令第十七條の規定による一、五倍である六百七十五円(この額については都道府縣知事に報告を要するところ原告が異議訴願を経ているにかかわらず現在なおこれを是認せられている事実より適法な報告がなされているものと認める)となされている点から判断して同條例は旧法時の制限賦課制度を採つているものではない。すなわち旧法の下における町條例そのものではないと認めるべきである。もつとも同項に地方税法第六十四條とあるは新法の同條でないことは明らかであるが、これは旧法の第六十三條でありかつ新法の第百四條に該当することは容易に判明するところであるから、右地方税法第六十四條は新法第百四條と読みかえるべきものである。これあるの故で直ちに同町條例の無効を來すとはいえない。しこうして本件條例第二項の「町民税は納税義務者の概算資力の見立によりこれを課す」とは前記町條例および賦課基準設定の経緯および後記説示の本件賦課基準に対する解釈と相俟つて、これは新法第百四條の「納税義務者の所得の情況、資産の情況等を標準として見立により課す一趣旨と解することができないでもない。本件賦課基準には均等割をも加味しているので、この部分においては前記新法も認めていることは原告も爭はないところである。同基準の住宅割あるいは前年度町民税割については、これのみでは、納税義務者の所得、資産の状況あるいは当該賦課年度の該状況は握の唯一の標準となし難いことは原告所論のとおりであるが、新法第百四條には納税義務者の所得資産の状況をは握する方法を限定していないのであるから、これ等を右状況をは握するの一資料となし、他の方法と相俟つて、同法の趣旨を実現すれば足ると解さねばならない。しこうして同基準にいう「見立」とは、その文理上右住宅割、前年度町民税割による方法を除き、その納税義務者の所得、資産、生活程度ないし態様、社会的信用または地位等一切を斟酌して、担税力をは握推定する方法であると解し得るから、これと前記方法と相俟つて同新法の趣旨は実現することができると解することができる。さすれば、本件町條例および賦課基準は新法第百四條に違反するところなく決して無効ではない。從つて本件賦課処分も無効ではないこと明瞭であるから、原告の請求は理由なしとしてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して、主文のように判決する。
(裁判官 今谷健一 赤塔政夫 松永恒雄)